海外における水事情について

広く世界を見渡すと、水道設備の整った一部の先進国を除いては、砂漠周辺の国のように飲み水さえ確保できない、水道設備が全く未発達で、不衛生な井戸水や河川、湖水の水を使用しなければならない、水を居住地から遥かに離れたところまで毎日汲みに行かなければならないという状況の国もあります。

飲料水

日本では最近になってこそやっと、ボトルのミネラルウォーターを飲料水として常用するようになりましたが、このことは世界各国に比べると大変遅れて定着した習慣で、ある程度の生活水準を持つ諸外国の人々は、かなり昔から水道水を飲料水だとは思っていないのです。飲料水といえばミネラルウォーターを飲むのが当たり前だと思っているのです。ですから、「この水道の水は飲めるの?」と考えること自体が、大変日本的な考え方なのです。

海外の滞在先において、飲料水は常にボトル入りのミネラルウォーターを用いていれば、お腹を壊すなどのアクシデントが発生する可能性は大変低いのですが、問題は飲料水以外の場所で体内に入ってくる水分です。

海外の滞在先では、生ものや生野菜を口にするのは極力避ける行為であると、誰もがそれなりの認識を持っていますが、意識していてもうっかり口にしてしまうのが、コーヒーや紅茶などに用いる密封されていない状態の乳製品や、生のフルーツをジューサーにかけて作られたフレッシュジュース、そして、最もうっかりしやすいのが飲み物を冷やすための氷です。

フレッシュジュースは果汁100%だったら大丈夫な場合もありますが、水を注いである程度薄められている場合は、ミネラルウォーターではなく、水道水が用いられていて、ことに、氷の場合においてはある程度高級なホテルでも殆どと言ってよいほど水道水が用いられている場合が多いのです。

こういう状況を考えると、海外の滞在先で一番安心して飲むことができるものは、ペットボトルやアルミパックなどで完全密閉された飲み物の他は、煮沸消毒してあるお茶類だけなのです。

水で起こった健康問題

過去海外諸国で起こった、水にまつわる怖い実例についてお話しします。

まずは1933年、アメリカのシカゴ万博会場のホテルで、浴槽と便器に接続された下水管を通じて、水道の給水管内に雑菌が侵入し、409名がアメーバ赤痢に罹患し、98名が死亡するという悲惨な事件が起こりました。常に清潔な状態を守らなければならない水道管に、他の配管を接続する方法は、日本では法により大変厳しく禁止されているのですが、アメリカでは21世紀の現代になっても禁止されておらず、たびたび事故を起こしているそうです。

また、こちらもアメリカでの話しなのですが、1993年ミルウォーキー市で、原虫であるクリプトスポリジウムによる上水道の汚染があり、40万人の感染者と400名の死者を出す大惨事が起こりました。

この高倍率顕微鏡を用いてやっと確認ができるほどの小さな原虫は、上水道の消毒に用いられる程度の塩素濃度では死滅しないため、日本を含めた多くの国では高額なコストをかけてろ過フィルターを設置し、微々たる量であっても上水道への混入が絶対にないように、随時細心の注意が払われているそうです。

この2つの大惨事の例は、たまたま両方ともアメリカでのお話でしたが、最先進国として世界をリードしているアメリカにおいても、その水道水の管理状況たるものはこんな状況ですから、特に水に関して身の安全を図ろうと思うのならば、極力水道水を口にする機会を減らす、海外在住者はできる限り自分が調理したものを食するように日々の生活の中で努力することが必要なのです。

自然のままで飲む

海外滞在中には誰でも生水に細心の注意を払っていますが、何人もの日本人旅行者が飲んでみてもお腹の不調に陥ることはなかったのは、水源に近い2500m級の高山の湧水でした。考えてみれば、水源は動物や人間の活動エリアに入る前の状態の水ですから、その理由も分かるような気がします。

ただ、このときは運よく健康問題は起こさなかったのですが、最近では日本においても水源付近の水もひどく汚染され、未消毒、自然のままの状態で完璧に安全ということのできる水は、日本はおろか、世界中どこにも存在しない状態に近くなってしまっているのです。

というのも、水の循環を考えると、地球上の水は全て液体、気体、固体いずれかの状態で存在し、形を変えながらこの地球上を循環しいています。その中で汚染されてしまったものは、自然の浄化作用を受ける中で無に近い状態に返ります。ですが、最近では汚染が浄化能力を遥かに超えている、また、自然の浄化能力だけでは分解できない化学物質も排出されるようになり、人間に供給される水の原点である水源にある状態でも既に汚染されているという状況になってしまっているのです。

この源流汚染問題は、10億を超える人口を抱え、しかもここ近年工業発展が極めて著しい中国やインドなどでは特に深刻な問題となっています。ですが、常に形を変えるのが水の常ですから、汚染物質がこれらの国々だけに留まっていることは考えにくいことで、これらの国の汚染問題は世界中に広がっていくはずなのです。

スーパーの水売り場などを覗くと、日本国内を始め世界各国から集められた「××の名水」などと書かれたボトルの水が数多く販売されていますが、これらにも人工的な手が加えられていることは間違いなく、自然のままで安心して飲める水というのは、既にかなりの環境汚染が進行した時点で、この地球上から存在しなくなってしまったのかもしれません。

外国滞在の為に準備したいもの

日本人が海外旅行、海外滞在をする時、水に関する健康問題から身を守るために携行することをおすすめするものは「食塩」です。なぜ、あえて食塩を常備しておくことを勧めるのかと言いますと、そこにはこんな理由があります。

特に日本よりも気温が高い南国などに滞在する時は、必然的に通常時よりも水分補給に関して深く配慮しなければなりません。このことに関し、水さえ飲んでいれさえすれば体の水分が補給されていると思われがちですが、実はそうとばかり言えないのです。

体の中から汗や尿となって水分が排出される時、実は同時に塩分も排出されています。汗が口に入ると塩辛いのはそのためです。そういう状態で水ばかりを補給すると、体は常に体液の塩分濃度を一定に保とうとしますから、水は補給する先からどんどん排出されてしまい、体液として体の中に補充されないのです。

そういうことを考慮し、より水分を体内に摂り入れ易い形にするために開発されたのが「ポカリスウェット」などのスポーツ飲料です。ですから、ポカリスウェットなどの粉末を用意しておき、ボトルのミネラルウォーターに常に解かして飲用するという手もあるのですが、ポカリスウェットには殺菌作用がありません。

ところが、食塩には大変高い殺菌効果があり、例えば、口の中を消毒するためにうがいをするに当たっても、熱湯に食塩を溶かしたものをうがい液として用いれば、それは医学的にも大変効果の高いうがい薬となるはずなのです。食塩は水分補給と消毒の、2役を果たしてくれるのです。

水に感謝する

このようにして世界の水の状況を知ると、日本人という国がいかに清潔で安心して口にできる、豊かな水に恵まれ、そのことが不安のない幸福な生活に結び付いているのか、改めて実感できると思います。国民の誰もがそのことに深く感謝し、それを守るためのエコ活動にもより協力的に参加する気持ちを持たなければなりません。

しかし、衛生状態のよくない発展途上国の様子を見ると、戦後の日本がたどった道と同じように、国の経済的な発展を最優先して考え、水に関しても、清潔に浄化された水が飲めないのは技術的に水を浄化できる設備が完備できないからと考え、この点においても技術進歩を優先させてしまっている部分が見受けられるのです。

確かに、人間に取って安全な水を確保するためには、水質を管理する技術も必要とされます。ですが、それ以上に大切なことは、全ての生命の源となっている、自然の水をできる限り人間の手で汚染することがないように保ち続けることなのです。

日本は最近になってこそ、水に関する衛生状態が世界的に見ても極めて優れた国となりましたが、一昔前はこれらの発展途上国と変わりませんでした。そして、工業的な発展だけを目指した挙げ句、一般の人が口にする飲み水にも健康を大きく損なってしまうほどの大公害が発生するようになり、そこで改めて自己を反省し、方向性を考え直した結果、現在の日本の状態が出来上がったのです。

これと同じ経験を世界の多くの国々にさせないように、水質管理の先輩として自国の失敗経験を活かし、世界中の人々が衛生的な水が飲めるようにリードしていかなければならない立場にあると思うのです。

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